スクロールバー

フレンチたべたいなぁ

私は昔から、ちょっと影響されやすいタイプだ。
ドラマを見れば職業に憧れ、映画を見れば主人公気分。
そしてある日、「グランメゾン東京」を見てしまった。

炎の中で料理を仕上げるキムタクが、あまりにかっこよくて、
「よし、俺も三つ星シェフになる!」とつぶやいた。
でも翌朝、握っていたのは包丁ではなくマウスだった。

そう、私の主戦場は厨房ではなく、制作部。
包丁じゃなくてマウス。
フライパンじゃなくてIllustrator。
焦げそうなのはステーキではなく、納期。

でも気づいたんです。
印刷も、けっこう料理に似てる。

レシピ=仕様書。
材料=データ。
盛り付け=レイアウト。
味見=色校。

そして、たまにレシピ通りにやっても仕上がらないのがまた奥深い。
「あれ?思ってたより青い…」
「なんか文字ずれてる…?」
まるで“塩ひとつまみ多かったシチュー”のように、微妙な違和感が出る。

そこからのリカバリーこそ、職人の腕の見せどころ。
印刷の世界では、“焦げ”は許されません。

納期前の制作部は、ほぼ厨房。
みんな無言。プリンターの音だけが鳴り響く。
誰かが「画像、最新版に差し替えです!」と言うと、
一瞬で空気が張りつめる。
まるで仕込み中に「メインの魚、変わりました!」と告げられたシェフたちのように、
その場の全員がピタッと止まる。
「え、今!?」「もう盛り付けてたよ!?」
それでも誰も焦らない。
ただ静かにファイルを開き、データを整える。
——これがうちの“グランメゾン印刷”。

でも、その混沌の中でデータがきれいに仕上がった瞬間、
プリントアウトを見て思うんです。
「……うん、今日もいい“皿”ができたな。」

シェフの夢は諦めたけれど、データの仕込みは毎日全力。
うちの厨房(=制作部)は今日もフル稼働中。
星はつかなくても、トンボだけは完璧です。

制作 石橋